ユウシの作文

それでも 私は 文章をかくんだっ 自分が生きるために!!

寄り道

楽しい旅だったか?
と問われたら、もちろん、楽しい旅だったよ、と答えるだろう。
しかしもしも、楽しめたか?と問われたのなら、首を縦には振れない。
そんな旅だった。

初めての場所、美しい景色、食べたことのない食事。
それは、ずっと心に重く苦しく現れるたくさんの感情を消し得ない。

オートバイで走りながら、頭上の大きなオリオン座に気づいた。
街灯のない道の星空。

この景色を見せたい、そう思っても、この街にもう二度と来ることはないのだろうな。
奇岩に挟まれた道を走りながら、二度と戻らない人生を思う。

楽しかった記憶。
訪れた場所。
共有した経験。

一方通行の生命は、だからかけがえがなく、だから失敗という概念をもたないはずだ。
後悔なんてあろうはずがない。
ただ、切なくなるだけだ。
寂しくなるだけだ。
それを埋め合わせる楽しさは、おそらく存在しない。
切なさも寂しさも、100%の純度で、ただ受け入れるだけだ。

あらゆる方角から騒がしい音楽が響き、酒に酔った色々な言語が行き交う繁華街で、なぜか死んだ祖父母を思い出していた。
「人間てのは、本当にどうしようもない」と口にしながら、それでも人間を愛していたに違いない祖父だった。
この街では酒とご馳走が余り漏れながら浪費される。少しの金で明るく楽しい女の体と時間が買える。
道を歩きながら、いつか死ぬ日のことを考える。

帰りの飛行機が墜ちたら。
別に構わない気がする。
やりたかったことも行きたかった場所もまだまだある。
それでも、いまこの人生が終わることに悔しさはない気がする。
当然のことのように感じる。
そんな感性に、旅の同行者や飛行機の同乗者を巻き込んじゃいけないのだが。
おれは人を傷つけて生きてきた。
ただその理由だけで、死は妥当だ。

それでも飛行機は堕ちないだろう。
だから人生は続く。続きやがる。
なら、今しかない。

今しかないから、旅を続ける。

さあ、どこに向かおうか。
死という最後のゴールまで、たくさん、たくさん、寄り道を。
なるべくまっすぐ行かないように。
オートバイも、心も、ゆれながら、別れながら、忘れながら、大切な荷物を抱えて進む。

二度と戻らない美しい日々よ。苦しい日々よ。
さようなら。
またいつか。