いつもの山を歩いていた。
ふと思い出した。
もう何年前だろう。10年くらい前だろうか。
仲間たちと、山中の、誰も通らぬ道なき道を歩いていて
そのうちのふたりは、仲睦まじくつきあっていた。
おれたちは、誰がやったのか、倒れていた木にナイフで相合傘を描いた。
つきあっているふたりの名前を刻んだ。
本人たちは、ただはにかむのみ。
かわいい悪戯だ。
ちょっと茶化したかっただけの。
あの木は、あの相合傘は、まだ刻まれたまま残っているのだろうか。
きっと、あの山のどこかで、まだ残っている気がする。
もう場所も忘れてしまった。
ふたりはその後、別れ、別れきれず、しかし別れ、今は別々の人と結婚した。
それぞれ、幸せそうに暮らしている。
そしてふたりは今もまだ、仲良しだ。
相合傘、その祈りのような、小さな夢のようなものは、叶ったのだろうか。
歩きながら、思った。
夢は、だいたい半分、叶う。
ずっといっしょにはいられなかった。
でも、今も仲良くいつづけている。
夢は、だいたい半分、叶う。
それを絶望とは思わない。
希望と抱いて、今日も山を歩く。